■ III. こどもに対する気持ち、接し方 ■
本気が見たいんですよ、こどもは

  • - 以前、Sweet Dreamsから出版された『勇猛果敢なアイダのものがたり』*5という本に寄稿されていましたね。紘良さんが副園長を務めていらっしゃる「しぜんの国保育園」の様子が少し載っていましたが、その記事で園内のBGMにブライアン・イーノ*6などマニアックなものを流しているというのに驚きました。反応はあるんでしょうか?他にはどんな選曲をされていますか。

    K:運動会のときは全部選曲/作曲してます。園歌など自分で作った曲をこどもたちに歌わせる、ということもしてます。 あとはこども向けの音楽プログラムがあり、楽器を使ってというよりも、音の響きに対してこだわって、例えばいろんなところをたたいて自分たちで音をキャッチしてみようという「オトキャッチ」というプログラムがあったりとか。楽器じゃない、十二音階じゃない音楽をどうやって耳で聴くか、みたいなことを試しています。こどもたちの反応もすごいですよ。基本的に教育というよりお遊びですから。そういう気持ちでやってるから、出てくる音が素直で良い音になっています。

    - 保育園は何歳からですか?

    M:0歳(2ヶ月)から6歳までです。

    - 年齢によって音に対する反応は違いますか?

    K:COINN*7で0〜2歳の子を相手にたくさん演奏しますけど、楽しんでます。それはねぇ、あんまり派手にしないんですよ。「さぁ!みんなぁ!」みたいな感じじゃなくて、もうちょっと、しっとりした曲をやるとか。 自分たちが好きな音楽をやるんですけど、そうすることで大人もしっかりと感情が入るじゃないですか。周りの見ている大人も感情が入るんですよ。そうすることがいちばん大切で…。
     人間って言語を覚えるときにいちばん大事なのって「語りかけ」なんですよ。それは感情が入っているからで。読み聞かせとか、ストーリーテリングってのがいちばん大事。だからそれに近いように演奏者が感情をちゃんと込めて、本気で、自分のやりたいことをやってるというのがすごく大事。ただ単に上手く歌うことには、こどもはそんなに興味がない。本気が見たいんですよ、こどもは。

    M:本当に、そうだと思いますね。本気であればどんな音楽でもいいと思うんですよね。 きっとアイダのエリザベス*8も、本気で語りかけるように歌ってるから。

    K:自分が、その曲を好きなんだろうね。家でも自分で聴くだろうし、歌いたくて歌ってるだろうし。

     僕は、テクニック至上主義の音楽があってもいいと思うんですけど、それが最高になっちゃまずいと思うんです。やっぱり何種類かの音楽がその子の周りにないといけない。それが今あまりにも少ないと思ってて。だから、保育園にブライアン・イーノを流したらいけない、じゃなくて、流してもいいんですよね、流す人のほうに気持ちが入っていれば。

    M:今、こどもの音楽って言ったらヴァリエーションが少なすぎて、こどもが選べない状況にあるから…。

    K:成長した時に、それが自分の中のヴァリエーションになってしまうんですよね。何かきっかけというか、いろんな鍵を与えておかないと、開けられるドアの枚数が少なくなってしまう。
     語りかけという点では、「この大人、本当にこれが好きなんだな」と思わせたときに、こちらに耳を傾けますね。怒る時もそうなんですけど、何を言ってるのかわからなくても、この人は自分に対して本当に何かを伝えようとして怒ってるんだなというのがわかったときにしっかり聞きますね。変な道徳観だけで怒ってても、そのうち聞かなくなります。


  • *5『勇猛果敢なアイダのものがたり』
    アメリカのインディ・ロック・バンド、IDAにまつわる愛情たっぷりのハードカバー本。saitocnoは7ページ記事を寄稿。エリザベスへの子育てインタビューもあり。→Sweet Dreams HP


    *6 Brian Eno/Ambient1: Music For Airports
    アンビエント・ミュージックを提唱したブライアン・イーノ'78年の代表作。登園時間に流しているのだそう。


    *7 COINN(コイン)

    紘良氏が2009年に結成した、おとなと、こどもと、あかちゃんに、愉快で切ないコンサートを届けるチルドレンミュージック・バンド。保育園など各地でライヴ活動中。2011年2月に初アルバム『Hello!Hello!Hello!』(画像)をリリース。→COINN HP


    *8 Elizabeth Mitchel

    前述のAIDAの女性ヴォーカリスト。アメリカのフォーク音楽の伝統にのっとったチルドレン・ミュージック・アルバムをソロ名義でシリーズ制作している。最新作は『sunny day』(画像)

■ IV. 「こどものため」の実用性のある音楽 ■
「こども向け」にしなくてもいい

- 質の良いこども向け音楽って欧米にはいっぱいあるんですが、日本にはあまり無くて…。実用性が無いものが多い気がします。エリザベス・ミッチェルの歌う音楽は実用性が伴っていると思います。実際こどもがいっしょに聴いて反応するとか、その辺まで考えて作っているように感じます。

K:日本には少ないですよね…。COINNはそういう実用性を狙って作ってます。サンプルCDを差し上げてますよね?

- はい、聴かせていただきました。ただ、COINNって音源を聴いただけでは、これを聴いてこどもがどういう反応をするのかというのが想像できなかったんです。わりと普通の音楽じゃないですか。普通のポップスのようなものを演奏して、どう反応があるんだろうと。

K:反応いいですよ。手応えがあるからCOINNは続けられています。

- そうなんですね。いわゆる「こども向け」じゃなく、そういうのをとっぱらった音楽としてのものをこどもの前で演奏して、どういうリアクションがくるのか、ちゃんと聴いてくれるのかすごく興味があるんですが…。

【ここで、COINNのライヴ映像(観客のこどもたちも映っているプライヴェートなもの)を見せてもらいました。】

- みんな集中して聴いてますね。

K:音そのもの、楽器そのものの楽しさってのもありますよね。楽器の珍しさもあるだろうし。

M:生演奏に触れる機会が少ないですからね。こどもがいるお母さんはライヴにもいけないですし。

K:ジブリを演奏しなくても受けますからね(笑)。確かに、歌える曲は大切かとも思うし、アニソンやれば盛り上がるんでしょうけど、でもそれは新しいものに出会ったりすることもないし、自己満足同士の戦いになるわけじゃないですか。

- ジブリやっとけばいいか、という。

M:こどもも歌っときゃいいか、って。(笑)

  • K:あるときピアノの先生を保育園に呼んだんです。レパートリーを見たらジブリとかが結構入ってたので、全部それをやめてもらって、その先生の好きなドビュッシーを弾いてもらったんですよ。こどもは4、50分聴いてましたよ。面白いから、ドビュッシーは特に。「子供の領分」*9とか。あ、断っときますが、僕、ジブリは好きですからね。(笑)

    - あ、私もです。(笑)

    M:こども向けにしなくてもいいですよね。


  • *9 ドビュッシー:子供の領分

    フランスの作曲家ドビュッシーが、愛娘のために作ったピアノ作品。ユーモアと可愛らしさに満ちた6曲からなる組曲。

-「こども向け」って考え方がもう、上から目線というか、大人の考え方で。

K:「こども向け」っていうのはよくないと思いますが、「こどものため」ってのはありだと思う。

M:そうだ。今いいこと言った!

K:今作ってるCOINNのアルバムは、保育園の一日を歌ってます。おはようからさよならまで。それはやっぱりこどものために作ってて。やってる音楽は自分たちの本当に好きな曲。アルバムは聴いて楽しんでもらいたいし、口ずさんで欲しい。ライヴに来て大合唱してくれたらありがたいですけど。(笑)


COINN「はじまりのうた」ライヴ映像。

→■ V. 親として、大人として ■ へつづく