「“可愛らしさ”に魅せられて」 〜 良原リエインタビュー

  • 雨と休日のインタビュー・シリーズ第7回。今回は、アコーディオン/トイピアノ奏者として活動される良原リエさんをお迎えしました。最新作『oh, what a beautiful day!』*1を始めとした様々なソロ名義、ユニット名義、サポートなどでの活動と、もうひとつの顔である料理研究などの暮らしに関わる多方面な活動をされていらっしゃいます。
    (※本文中の注訳にあるCDのうち、雨と休日で取扱いのあるもののみ、ジャケットをクリックしていただくと商品ページへジャンプいたします。)


  • *1 良原リエ『oh, what a beautiful day!』

  • 良原リエ(よしはら・りえ) プロフィール --
     音楽家。アコーディオンやトイピアノなどの鍵盤奏者。古いアコーディオン、トイピアノ、オルガンやトイ楽器を多数収集し、演奏する。国内外で良原リエやtrico!*2、small color*3などの名義で自身のCDリリースの他、空気公団*4やWorld's end girlfriendなどの他アーティストライブやレコーディング、TV、映画などのレコーディング、子供番組、CMなどのアレンジ、プロデュースなど様々なジャンルで関わる。また音楽のみならず、雑誌やwebで料理、庭など暮らしまわりに関する文筆、スタイリングなどを手掛け、ライフスタイルのすべてを盛り込んだ独自の活動を楽しく展開。著書に『音楽家の台所』『こころとからだのためのきれいごはん』(共にコノハナブックス)がある。

    Rie Yoshihara web site

    ■ I. ルーツのこと、楽器のこと ■
    その可愛らしいフォルムが一番好き


  • *2 trico!『everyday trip』


    *3 Small Color『In Light』


    *4 空気公団『春愁秋思』

- 良原リエさんを語るときに重要なものとして、音楽と料理両方がありますが、どちらの創作においても料理研究家(という肩書が良いのかどうかわかりませんが)としての自分と音楽家としての自分とが互いに影響をし合うものなのでしょうか。

良原リエ:好きなことを楽しみまくっていたら、ありがたいことに気づけば仕事になっていました。音楽のほうが早く仕事になったので長く携わってきた自負から、音楽家と名乗っています。料理が仕事になってきたのは最近のことで、まだ料理研究家といえる自信はありませんが、大好きなもののひとつです。音楽や料理、他にも庭仕事や針仕事、DIYなど、どれも私の生活にはなくてはならないものです。特に何もないところからひらめいたアイディアを形にするのが大好きです。そういう意味では、音楽も料理も私にとっては同じことだと感じています。楽器に触れていたらメロディーが生まれて曲ができ、食材の香りかいでいたらレシピが浮かび、調理し、一皿となるといった具合です。音楽と料理は影響しあうというよりは、どちらも同じ創作活動の一環で、たまたまそれがその日は音楽で、ある日は料理だったという違いかなと思います。

- ご自身の音楽のルーツあるいは幼少時代の音楽体験についてお聞かせください。

 小さな頃に初めて触れた楽器はおじさんがプレゼントしてくれたトイピアノでした。それで鍵盤が好きになり、6歳からピアノを近辺の友達のお母さんに習いはじめました。ピアノを買ってくれたのはだいぶ後で、しばらくはそのトイピアノで練習し、すぐに鍵盤が足りなくなり、かなり長い間、バイエルの巻末についていた紙鍵盤を使ったイメトレだけでレッスンに通っていました。今思うと楽器がなかったおかげで、頭の中でイメージした音を鳴らすことに慣れ、楽器がなくてもいつでも好きな時に音楽を創れるようになったのだと思います。自分で楽曲をリアレンジするのが小さな頃から好きで、与えれたクラシックの楽曲も好きなところだけリピートしたり、構成を変えたりしてよく怒られたのを思い出します。中学生になると横浜に住んでいたのでFENにはまり、アメリカントップ40のチャートを聴くようになり、洋楽の洗礼を受けました。高校生の頃にはバンドを組んでオリジナル曲を創り、コンテストに出まくり、大学生の頃にはバンドでメジャーでCDをリリースしていました。それから音楽業界でのらりくらりと今に至ります。

- トイピアノに惹かれるのはどういったところですか?

 一番はその可愛らしいフォルムです。特に古いものにはなんともいえない存在感があります。眺めるだけで、飾るだけでたまらなく可愛らしい。すっかり惚れ込み、海外のオークションなどで買い漁り、一時は十台以上保有していました。しかしこれではただのコレクターになってしまうと思い、仕事にしようとライブで使うようになりました。弾きはじめてみると、2オクターブという小さな世界で曲を表現する面白さにはまりました。ピアノに弾き慣れているととても難しいような気がしますが、音をそぎ落としていくとなんとかなるもので、うまくまとめることができたときにはとても嬉しくて、一人悦に入ります。

- 同様に、アコーディオンについてはどうですか?

 アコーディオンも同様で、その可愛らしいフォルムが一番好きなところです。特に60年代、70年代の頃のものは職人の遊び心が感じられる素敵な配色、フォントも楽しむことができます。私の父が貿易商で、小さな頃には海外の不思議な雑貨に囲まれて育ったこともあり、それらと同じ匂いのするデザインが余計に好きにさせているかも知れません。

- ソロ名義と、small colorなどユニットでの活動との、いちばんの違いは何でしょうか。

 ソロは私の頭の中を表現する手段です。small colorなどのユニットはメンバーと創り出す音楽です。small colorの曲の半分以上、アレンジは全てメンバーのオオニシユウスケが担当しています。大雑把な私では思いつかない、とても繊細な音創りなので、いつもはっとさせられます。もしかしたら外から見たら似ているジャンルに入るのかもしれませんが、自分にとっては全く違う音楽に感じています。

- 空気公団にサポートメンバーとして参加されるいきさつを。

  •  長年一緒に演奏しているパーカッションの山口とも*5氏が先に空気公団に参加していて、とも氏が私とのデュオのライブに空気公団のメンバーを呼んでくれたのがきっかけです。空気公団に参加させてもらったことは、ライブをそれまでなりゆきやセッションを楽しむことに重点を置いていた私には、とても勉強になることばかりでした。綿密で濃厚なリハーサル、見え方、見せ方をとことん考える、空気公団のあり方をいつも客観的に見ているなど。本当に素敵なバンドで参加できて光栄でした。

  • *5 山口とも:廃材からオリジナルの打楽器を製作するパーカッション奏者。NHK「ドレミノテレビ」にUAとともに出演(ともとも役)したことでも知られる。→ web site

■ II. 新作『oh, what a beautiful day!』について ■
音が鳴れば何でも楽器

- 新作『oh, what a beautiful day!』についてお聞きします。今まで以上に明るくポジティヴな意思を感じさせる作品ですが、ご自身の創作に変化があったのでしょうか。

 一番は息子が産まれたことです。毎朝、目覚めるたびにとてもはつらつとしていて、一日を楽しもうという元気さいっぱいの彼を見ていたら、こちらも明るい気分にならざるおえません。そんな生活の中でレコーディングしたので、今の空気がそのまま音になり、ポジティブな内容になったのだと思います。またtrico!名義でリリースしていたアルバムでは、自分の中を掘り下げていくうちに、内省的な内容になりました。二枚のアルバムで掘り起こしをある程度やり切った感があるので、その後のオリジナルアルバムだからこそ、今回のような内容になったのかもしれません。

-『oh, what a beautiful day!』ではトイピアノやアコーディオン以外にいろいろなものを楽器にしていますね。「音」そのものに対する意識として大切にされていることはありますか?

 音が鳴れば何でも楽器だと思っています。楽器というと調律されてきちんと作られたものを想像しがちですが、それはきっと例えばピアノなら白鍵と黒鍵で区切られた音階をイメージしてしまうからだと思います。ドとド# の間にも音があるわけで、そういった中途半端なところをオモチャ楽器や楽器でないもの、例えば自転車のベルやクッキーが入っていた箱などを今回のレコーディングでは使ったのですが、それらがうまく表現してくれると思っています。但し、あまりに調律が狂っていると聞いていて疲れてしまうので、疲れない程度のズレや曖昧さにとどめるようにしています。

- これまでの作品において「日常」「旅」といった言葉がテーマに挙げられることが多いですが、それらについて大切に思っておられることや、また「日常」「旅」以外に重要なキーワードがあったらそれについてお話しいただけますでしょうか。

 旅も日常の一部なので、やはり毎日の生活が一番のキーワードかもしれません。おおげさに聞こえるかもしれませんが、それは毎日、明日死ぬかもしれないと思って生きているからです。冗談ではなく死にかけたことがあり、その時、人の一生は明日終わりを告げるかもしれないと体験したからです。その日から、自分の毎日を楽しく、素晴らしくすることをいつも念頭に置いて生きています。好きなことはとことんやりますし、妥協もしません。やりすぎてしまうことも多々あるのですが、自分が納得できるように頑張るのが趣味です。ただやりすぎて過労で倒れたりすることがあったので、今は息子のために倒れない程度にとどめる努力はしています。ともあれ毎日楽しく、素晴らしく。そんな思いが新しいアルバムにも詰まっていると思います。

- ジャケット画の福田利之、ゲスト参加のトクマルシューゴのおふたりについて。

  •  (福田利之さんについて)ジャケットをお願いした福田利之さんとの出会いは、baby book*6という赤ちゃんの成長を記録する本です。そのイラストの美しさ、色合い、そして時折出てくる楽器のモチーフなど、どれを取っても今回のアルバムのイメージにピタリとはまっていました。個展に伺うと、さらにカラフルで音が聴こえてくるような楽しい世界が待っていて、そのままジャケットにしたいと思う絵がいくつもあり、福田さんしか考えられませんでした。忙しい中、快諾してくださり、明るく楽しさが満ちあふれた絵を描いてくださいました。本当に感謝しています。


  • *6 『Baby Book』コクヨS&T刊→ web site
  •  (トクマルシューゴ*7くんについて)彼の音作りの面白さは私が語ることではないですが、今回一緒に作らせてもらって、彼が何故こんなに多くの人を虜にしている理由がよくわかりました。自分は面白い音を作っているつもりでも、意識せずとも型にはまっているのだなとも思い知らされました。私が弾いたトイピアノのベーシックにトクマル君の音を乗せてもらったのですが、自分だったら選ばない音階、ハーモニーだけを考えたら避ける音階がふんだんに使われていたからです。それでもきちんと調和して聴かせられる楽曲に仕上がっているから不思議です。本当に素晴らしい才能を持った人。大きな刺激をもらいました。

  • *7 トクマルシューゴ:ギターと玩具を主軸に楽器から楽器でないものまで様々な物を駆使してサウンドを作り上げる音楽家。国内のみならず海外からの評価も高い。→ web site

- その他これは伝えておきたいということがあれば一言。

 今まで本当にいろいろなジャンルの音楽を演奏し、録音してきました。その時々によって、興味の範囲が異なり、生まれた作品も随分と装いが異なるのですが、どれも私の体を通して聴こえてきた音です。違う音に聴こえるときもあるかもしれませんが、私のフィルターを通すことで、同じ音になっているとも感じています。今回の新しいアルバムを気に入ってくださったら、ぜひ過去の作品や他アーティストさんの作品も合わせて、その違いや同じ部分を感じ、楽しんでもらえたら嬉しいです。

(2013年11月 メールインタビューにて)

最後に、雨と休日のセレクションの中からおすすめアルバムをご紹介いただきました。

  • Nils Frahm / wintermusik
    オランダの知人の家にて、すすめられて聴いた数秒で、彼の美しい世界の虜になりました。
  • Henning Schmiedt / Spazieren
    こんなに美しいピアノが弾けたなら!私はアコーディオンやトイピアノなどといった鍵盤楽器に、あれこれ手を出さずにいたかもしれません。