- おふたりの音楽家としての相性はとてもいいように感じます。
津田:デュオだとインタープレイ(即興のせめぎ合い)みたいな感じになる人もいると思うんですが、ラジオゾンデはそうならなくて。曲の中で静かなところだとふたりとも弾かないでさらに沈黙に近い場面を作れるんです。
- それは素敵なことですね。共通意識みたいなものがあるんですね。曲作りはどういった進め方をしているのですか?
津田:どちらかが曲を作ってきてそれにフレーズを足して、という発想でできている曲はほとんどなくて、何となく弾いてるところに合わせて作り上げるということができるんです。フレーズを持って来ることはあるんですが、それだけで完成させることはないですね。自然と合奏してるうちにできるとか、最初から完全に即興で合わせるとか。
- 個人的な感想ですが、ラジオゾンデの音楽には、ドローン・アンビエント*5と呼ばれる類の他の作品とは違った開放感というか、音の裏側にある深い奥行のようなものを感じます。近年ではフィールド・レコーディング(野外での録音素材)を多用した作品もだいぶ増えましたが、その中には、自然の音をバックに流していればいい、という安易な作風も見受けられて辟易してしまうことがあります。
津田:僕たちが言える違いは…例えば青木君がソロでやってる「朝の音楽と朝食の会」*6がわかりやすい例で。時間帯によって鳴ってる音は当然違うんですよね。単純に朝っぽいからというような頭の中だけのイメージではなく、実際に朝の音を聴いて音楽を奏でるということをする。具体的なその場の音の違いを意識的に演奏に取り込んでいるんですが、いちばん大事にしてることはそれです。場所と時間ということですね、もともと興味があって出発点となっているのは。
- ファースト『sanctuary』とセカンド『radiosonde』で作り方は変わっていますか?
青木:『sanctuary』(2008年録音2009年リリース)は、録音した益子のSTARNET*7という場所のことが大きいですね。STARNETでライヴもしていて、場所の感触をわかってたうえで録音の見取り図を立てました。アルバムの1曲目なんかはSTARNETならではの音だと思います。津田さんの自宅で録音した音源をSTARNETに持っていって、スピーカーから流してその場の響きと一緒に再度録音したり…夏だったので蝉や虫がよい具合に鳴いていて…。ただ、『sanctuary』には僕らがライブでよく使用していた目白にある自由学園明日館で録音した音源も収録されています。
津田:演奏自体はそんなに違わないかもしれないけど、まとめる段階でファーストはSTARNETという場所を意識しました。今回のセカンド・アルバムはむしろラジオゾンデのアイデンティティーの輪郭をはっきりさせるのが一番だと思いながら、ミックスやマスタリングをしていきました。
- ラジオゾンデのアイデンティティーというと、今回、アルバムをセルフ・タイトルにしたのもそういった思いからでしょうか。
津田:そうです。今回は、どこか特定の場所のための音楽というよりも、様々な場所でのライブによって練られてきたラジオゾンデの音楽…聴取と演奏の関係のようなものや、「気象観測気球から眺めた風景画」というイメージを提示したかった。収録曲も、ある程度はっ きりしたキャラクターのものが中心になっています。
- 録音はどこで行ったのですか?
津田:今回は、青木君が毎年「夜の木」というイベントで使ってる、東京オペラシティにある近江楽堂で録音しました。それが、たぶん3分の1ぐらい。明日館やSTARNETと違って密室なんですが、響きが面白かったのでそこで録音したかったんです。あとは僕の自宅で録音したものと前回の録音を。
青木:ファーストを作ってる段階でこれはセカンド用だねって話していた音源がまずあって。そのいくつかはsawakoさんにお渡しして自由に編集していただきました。2回くらい意見のやりとりがあって、結果アルバムには3曲収録されています。それにライブで演奏していて形が固まってきた楽曲を録音して、さらに録音の現場で即興的に演奏した音源も収録しています。あとは津田さんの自宅で録音したものを近江楽堂でスピーカーから流して再録音したり。
- 先ほどもSTARNETでの話に出てきましたが、録音現場にスピーカーを設置しているということですか?ちょっと想像がつかないんですが…。
津田:基本的にはその場所場所で響かせた音をを録音して作品を作ります。たまたまライン入力で録音したものが良かった場合でも、一度空気に触れさせてから録音し直します。
- ライン録音の音源をスピーカーから流して再録音する、という手法は珍しいですよね。
津田:近江楽堂にスピーカーを鎮座させて、マイクを立てて録音する。こういう構図*8なんですが…。演奏者席に演奏者がいない録音なんて初めて見たと、レコーディング・エンジニアの庄司さんも面白がってました。庄司広光さんはTsuki No Waというバンドで活動されていた頃から、僕たちふたりともファンなんです(笑)。今回の、庄司さんに録音をお願いしたいという気持ちはラジオゾンデ初期から構想があって、ようやく実現したものです。
青木:セカンドはファーストに比べて音に対していろいろな距離がありますね。その部分でバラエティというか色彩感のようなものがあると思います。録音に使った時間は短いんですよね。そのあとの取捨選択とミックスの作業が長かった(笑)。
- 確かに、セカンドは色どりが豊かになっているような感じがします。ミックス作業は共同で?
青木:ファーストは津田さんがひとりで。セカンドは津田さんと庄司さんとsawakoさんの3人です。僕はラジオゾンデでは演奏と、あとはライブのDMのデザインをしたり…セカンドアルバムはジャケットのデザインも担当しました。ただ音に関しても「こうしたほうがいい」というような意見は出してますよ。
- 楽器としてはほとんどギターだけですよね。他にはどんな楽器を使うことがありますか?
津田:今回は青木君がオートハープ*9を1曲のみ使ってます。ファーストでもそうだったかな。でも、ほとんどギターと言って差し支えないかも。
青木:ライヴでは他にもいろいろな楽器を使ってきました。グロッケン(鉄琴)やハーモニカ、ギタレレ…会場にピアノがあればピアノを弾いたこともあります。
- ジャケットはnakaban*10さんですね。
青木:nakabanさんとは、友人の友人という繋がりで知り合いました。僕たちが主催しているライヴのフライヤーなどの装画をいつもお願いしています。毎回そうなのですが、今回のアルバム用には特にラジオゾンデのセルフタイトルだから「気象観測気球から眺めた風景」で、という依頼をして描いていただきました。その絵も面白くて、描いた絵を撮影してパソコンに取りこみ編集をしているんですね。写真に撮ることで空気感が加わり、さらにPC上の編集で雰囲気が出ていて…。そうやって作ってくださったいくつかの絵から選んでジャケットの装画としました。絵を選ぶ作業はデザインをする者として幸せな仕事でした(笑)。nakabanさんも、絵を写真に撮り編集をする手法は、ラインで録音した音も空気を通して録りなおすという僕たちの音楽の作り方と、近いものがあるとおっしゃってました。