- 1stをリリースしているオーストラリアのレーベル、someone goodから、“ポラロイドカメラで撮った写真をもとに10曲でアルバムを作ってほしい”という面白い依頼で作られたそうですね。このピアノはどんなピアノを使ったんですか?
家のピアノです。3歳の頃、ピアノを始めたときに買ってもらった、もう20年ぐらい使ってるアップライトピアノです。2nd(『Tiny Musical』)辺りは僕、すごくグランドピアノ志向だったんです。それで2ndはグランドピアノで録って。それをやっちゃってからは、アップライトピアノの…というか家のピアノの、重たい響きで、こもってる感じがするんだけど…「これはいい音だな」と最近思って。ポラロイド写真の音楽を作る、ということで、そのピアノをミュートさせた音で録ったんです。個人的な作品だし、個人的なピアノで録ろうと。
- これを聴くと、ゴンザレスの『Solo Piano』*5を真似たのかな、って思う人がいっぱいいると思うんですが。
あー、あれ欲しいんですよね(笑)。いると思いますよ。たぶん『Solo Piano』も個人的な録り方をしてると思うんですよ。だから真似しようと思っても絶対同じにはならない。『Polaroid Piano』の場合は、ほとんど音圧を上げたりしていないし、普通のCDより7dbぐらい音が小さい。デモで録るのとほとんど同じ音質で、マスタリングも音を少しクリアにしてくれたってだけ。だから逆に、そのゴンザレスのアルバムと聴き比べたら面白いかもしれない。響き方が全然違うから。
- レーベルメイトのギタリスト、Paniyolo*6がゲスト参加していますね。
Paniyoloがいい味を出してるんですよね。加工したギターを使いたくてお願いしたんです。何パターンか適当に録って送ってくれって言って。その中から選んで加工して。そしたらギターが面白い響きになって。ただギターが鳴ってるっていう感じがしない。
―曲によっては、言われないとギターってわからないような音になってますよね。
そう、10曲目「VENICE」とかすごくハマっていて。ローレンス(someone goodオーナー)が送ってくれたフィールドレコーディングともマッチングして。すごく情景的に。
―収録されている曲はすべて即興で、1日で録音したと聞きました(国内流通盤のボーナストラックは別の日の録音)。どんな日に録音したんでしょうか。構成やフレーズを考えるといった事前の準備はあったんですか?
弾いてる時は何も考えてないです。いつもデモを作るときも何も考えないで弾いているんですよ。ただ今回に関しては、(アルバム制作の)話はもうだいぶ前からあったんで、いつ録ろうかと思ってて。3月ぐらいに、ちょっとあったかくなってきて。ピアノを家でよく弾いているんですが、「あ、今日はなんかこう、いいフレーズが」って。今日は全部録れるだろうって。で、セッティングして。落ち着いて。じゃあ1曲目はこういう感じにしようって、弾いて。あー今の良かったな。2曲目はどういう感じにしようかな、っていう具合で。10曲っていうのは決まってたんですが、弾く前から構成を考えるのはいやだったんですよ。1曲弾き終えて、じゃあ次は、ってところで考えたかったから。2曲目はこうなったから、3曲目はこう。4曲目はじゃあこう、っていう感じ。
―じゃあ本当にいい日にいい演奏ができたんですね。
そう、いい日に録ったって感じで。後から並べて聴いてみて「あ、これだけでいいじゃないか」と思っちゃったぐらい。
―録音した後で編集の作業に入るんですよね。
弾いてる時は基本的に流れるままで、主観的で。後で聴いてみて、それぞれの曲の構成を考えて、編集して。編集してるときは客観的になってるんですよね。曲のイメージを広げるにはどんな音を足せばいいか、という。ピアノがまず聞こえてて、その周りで何かがほのかに鳴ってるって感じなんですよね。
―ヘッドホンじゃなくスピーカーで流していると、ピアノしか聞こえない。で、ときどきなんか聞こえてくる、っていう…
そうなんですよ。「ときどき何か」でいいんですよ。それが良かったんですよ、結局。
―今だから弾けた(作れた)アルバムだと思いますか?
そうですね。2年前だったら作れなかっただろうし、2年後には作りたくないと思うものかもしれないし。その時にやりたいことを自然にやってるっていうのがいいんです。ボーナストラック(初回限定プレスの国内流通盤に収録)を録るときも、録音のやり方ももう10曲目までと同じ形で録りたくなくなっていたし、同じようには録れないこともわかっているし。ボーナストラックは、もう、すごくシンプルな形で録ってるんですよ。加工もしてないし。10曲目まではモノラルだけど、これだけステレオで録って、純粋に僕の家のアップライトピアノの響きが録音されてる。ここにきてピアノがようやく起き上がってきている、というか(笑)、1〜10曲目は我慢して、ようやくのびのびと歌ってる。こういうトーンのピアノ・アルバムみたいなのは、scholeから出してみたいとも思いますね。