■ IV. 音楽とシチュエーション ■
寄り添いあってるぐらいがいい

 ベッドの近くにパソコンを置いてるんですけど、そこには夜、寝る前に本を読むときに聴きそうなものを入れて流しているんです。

―そうなんですか。雨と休日でも「読書に音楽は要りますか」というカテゴリーを作っているんですが、例えば読書の為の音楽、のようにシチュエーションを限定した音楽を自分で作ってみたいと思ったりしますか?

  •  そういうことを考えるのは結構好きです。それこそ『CLARITY & leaf disc』のコンピレーション*7の発想はそういうことです。毎朝乗るバスや満員電車の、あのつらい朝にせめて音楽だけは楽しく聴きたいというか。これを聴いたら今日も頑張ろうって思えるような感じで。そういう意味では音楽ってある種、救いじゃないですか。そういうものであって欲しいし。ロックやポップスだと楽しみ方がまた少し違うじゃないですか。ライヴに行って元気をもらいに行くとか。そういう、自分を音楽に合わせるんじゃなくて、自分イコール自分の生活がまずあって、そのうえで生活に作用してくる音楽。普段の生活の中でも、カフェに行ってもそうだし自分の部屋でもそうだし、雨が降ってたらとか…そういう自分の人生のシチュエーションの中で、scholeの音楽を聴くことによって何かしらのやすらぎであったり、喜びであったりとか。毎朝聴いてたら満員電車が苦じゃない、そういうちょっとしたことでいいんです。それって音楽のあり方としてとてもいいんじゃないかと思うんです。押し付けがましくないし。だから、音楽を好きな人だけに提案したくないというのもあるんです。


  • *7 フリーマガジンの発展形としてリリースされた『CLARITY & leaf disc』の中の、"Every Morning, Good Morning"というテーマで選曲されたCD『leaf disc』。

―押し付けがましくない、という点は雨と休日のコンセプトととても共感する部分です。僕はそれに、「寄り添う」って言葉を使ってますが。

 そういう意味ではたぶん雨と休日とは考え方が近いというか。僕自身も聴き方として、自分のライフスタイルっていうのがあって、そこに対して音楽が寄り添ってるってことじゃないですか。その音楽にある種の依存はしてるけど、こっちから寄りかかって無い、寄り添いあってるぐらいがいい。

―朝昼晩という時間だけじゃなく、どの場所で聴くかというのでも感じ方が変わってきますよね。どこに住んでるかでも違うし。

 そうですね。僕はよく外で音楽を聴くんですけど、例えばその辺を散歩しながら、音楽を聴くと聴かないとでは景色の見え方が違うんですよ。それは聞き流されるだけのBGMではなく、音楽によって世界の見え方が変わって見えるということ。

―あるときscholeのCDを聴きながら何かを見たとき泣けてきた、とか…

 …ってのはすごい嬉しい。音楽に感謝する瞬間ってそういう時だと思うんですよね。そういう感覚をできれば知って欲しい、っていうのがやってる側の想いです。でも強要してるわけじゃないのでラフな聴き方でも構わない。パッケージを含めて僕らは提案してるだけなんで、それを選択するかしないかはその人の自由だと思うし、曲順を変えて聴いてもらっても全然構わない。例えば、これは朝聴きたい曲だ、と思ってたらみんな夜に聴いてたとかそれはまぁ極端な例ですけど、そういうのって作ってる側から言うと発見だったりもするし。そういう反応は面白いですよね。

 僕の次のアルバム(scholeより来年リリース予定)は、必ず朝に聴くことにしてるんですよ。『Polaroid Piano』は外というより部屋の中。読書もできると思うんですよね。だから次は外向きの音楽を作りたかった。

―『Polaroid Piano』は、明る過ぎず暗過ぎず、少しだけ明るい、という曲調がとても良かったです。これを聴いていると僕もすごく落ち着いた気分になれます。ピアノ・ソロの作品って、内省的になって暗くなってしまうものが多いんですよね。

  •  今だから、かもしれないけど思うのが、音楽って、あんまり悲しいものは良くないんじゃないかと。人ってほっといても悲しくなるし楽しくもなるし。わざわざ音楽を聴くのに悲しいのを聴く必要ってそんなにあるのかなって思う。悲しみにどっぷり浸かるっていうのはわかるけど、作り手として無理に悲しい曲を作る必要はあるのかなと。

     スタンスとしては、ちょっとでもいいから誰かの為になるというか、誰かがそれを聴いてちょっと心が晴れるというか。そういうものであってほしいというのが音楽に対するささやかな希望です。悲しいなかにも、そういうなにか希望のようなものが垣間見える音楽は素敵だなと思います。

(2009年8月4日 世田谷のカフェにて)

最後に、雨と休日のセレクションの中から小瀬村氏のおすすめアルバムをご紹介いただきました。「2枚とも本当によく聴いています」とのことで、コメントもいただきました。

  • From Left To RightBill Evans / From Left To Right 「とても大事ななにか。本当はずっと抱えていたのに、ずいぶん遠くに置き忘れてしまっていたような。このレコードを聴くたびに、そんな感覚が浮かび上がる。」
  • now the day is overThe Innocence Mission / now the day is over 「心の奥深いところをそっと撫でられたような。大好きなmoon riverをもっと好きにしてくれた一枚。」

小瀬村晶 Akira Kosemura [producer / composer / schole records A&R]
1985 年生まれ、東京都在住。 国内外の音楽レーベルから作品を発表する傍ら、CM音楽の制作、映画やダンス公演、アパレルブランドへの楽曲提供など、多方面で活動を展開するアーティスト。 schole recordsを主宰し、多くのアーティストを輩出、複合メディア「Clarity x Leaf disc」クリエイティブディレクターを努める。 また、ヨコヤマアヤノ(舞踊)、千葉祐吾(映像)と共に、ライブパフォーマンスを展開。

『Polaroid Piano』
schole web site
Akira Kosemura official website