- ラジオゾンデは即興演奏が創作のベースとなっていますが、ライヴ演奏とアルバム制作は違うベクトルですか?
青木:どうでしょうね。重なり合う部分はあると思いますけど。ちょっとずつずれてるというか。でも僕たちにとってアルバムはライブの記録では決してないですよ。
- ライヴだとお客さんも含め、最初から最後までその場所で動くことなくずっと居ますが、アルバムだといろんな要素が入ってくるのではないでしょうか。
津田:ライヴだとまず季節、それとどういう雰囲気を持った場所かというところをすごく意識します。あの場所だったらこういうオープニングにしたい、とか。例えば「この音は夏向きだよね」といったような漠然としたものを、その会場の環境に流し込んでいくというか。アルバムは最終的には、そうした時間や場所という鋳型から抜いた「形」のようなものだと思います。
- CDだと、どこで流れるかわからないじゃないですか。その辺は意識しますか?
津田:流される場所はそれほど意識しませんが、これがどこで録ったかというのがある程度伝わればいいかな、と。民族音楽がずっと好きなんですけど、現地録音のアルバムを聞くと、ヴァーチャルな旅行というか聴覚旅行のような気分がして。たぶん聴覚って場所自体が持ってる空間の「肌理(キメ)」みたいなのを判断する能力が高いと思う。ときどきこういう古い現地録音のものを聴いていると、その現地にいるような錯覚になったり。古いのだと…リュシエンヌ・ボワイエ*11が古い劇場で目の前で歌ってる、みたいな。そういうところが僕の「聴く」楽しみであるので、そういうふうに聴いてもらえたらいいなと思うんです。スタジオ録音など空間性を排除しているのが嫌いという訳ではないんですが。音が発せられてその空間に響いた、その生々しさのようなものを、作るときはこだわりたい。
青木:録音した場所の空気もCDに収めてというのは、装飾的に空気も含めて録音しましたよ、というのではなくて、もっと本質的にその場所のことも含めて自分たちの作品ですよと。
津田:それが他の空間で鳴った時に、どう響くかというところまではあえてコントロールしようとは思わないですね。それは聴いて下さる方や、それを必要とする場所に委ねてます。
- 最後に、ラジオゾンデのライヴの魅力についてお話しできればと思います。時間、天気、季節によって演奏が変る。そういうことをライヴでやっているアーティストは少ないと思います。それを美術館でのサウンドアートのようなものではなく、音楽ライヴとしてやるというのは、音に対する意識を認識できる良い機会でもあるかなと個人的に思います。自分たちで主宰するライヴへの準備は念入りにおこなっているんじゃないかと想像するんですが、いかがでしょうか。
青木:綿密に計画をして組み立てていくことよりも、ライブ会場に行ってあれこれ判断することのほうが多いです。そのあたりは映画の作り方に似ているんじゃないでしょうか。思った以上に会場が広かったから演奏の雰囲気を変えようとか。窓が開けられるから途中で開けてみようとか。ただ、場所のことを熟知している場合は、あらかじめスピーカーをいろんなところに置いたりと、インスタレーションのようなこともします。
- お客さんには、ライヴ会場のその場所と時間を含めて感じて欲しいという思いがありますよね。
青木:そうですね。
津田:会場の広さに応じてどのくらいの音量を設定するか、といったことはとても重要だと思ってます。どんな場所だろうと自分たちの音を前から後ろに向けて聴こえる音量でどんと出す、ということより、その会場にどういう配置で音がなっていると面白いか、ということは常に考えます。例えば30人ぐらいのライヴだったら静かな場面を作るんです。その場面になると、お客さんが小さい音だから集中する…。
青木:集中して耳をそばだてることになるし、それで音楽以外の音、たとえば外で虫が鳴く音とか、車が通りすぎる音とかも聴こえてくるようになる。そうすることによって場所や時間がおのずと浮かびあがってくる。これは引き算の表現ですね。場所の気配と呼べるような音を、僕らも聴きたいんですよ。
津田:うん。自分たち自身が、音をもっとよく聴きたいというのはすごくあります。自分の曲を聴かせたいというよりは、自分で弾いたこの音はどういう風に響いてるのかなというのを聴きながらやるのが楽しい。お客さんの気配とかも。
青木:僕たちも含めてみんなで音を聴いている時間があって…そんなときはお客さんとの境も無くなるように感じます。
- 音楽以外のいろんな「音」に気付く、敏感になる。そういう意識って大事だと思います。強要するわけじゃないんですが、世界が広がりますよね。
青木:そうですよね。なんだか豊かな気持ちになるというか。ラジオゾンデの音楽がそういう世界に触れるためのツール、フィルターであるといいなと思います。
- なるほど。
青木:…綺麗にまとまり過ぎですね。
一同:(笑)
(2010年3月16日 津田氏自宅にて)
ラジオゾンデのライヴ情報は、こちらのブログをご覧ください。
→radiosonde blog
最後に、雨と休日のセレクションの中から津田氏、青木氏それぞれにおすすめアルバムをご紹介いただきました。
津田貴司おすすめ盤: Ryan Francesconi / Parables
「はじめてひもとく記憶のように、時を刻んでゆく彫刻刀はうちふるえながら。ろうそくの炎が、古楽やフォークロアというレリーフを、また違う角度からの、ほの明るい光で濡らす。その弦を、その爪が弾いている。すぐそこに、言いようのない時間の断層が現れる。こんなに古くて新しい響きを、いま聴くことができる幸せ。」
青木隼人おすすめ盤: Early Songs / Wind Wound
「このCDは雨と休日で教えてもらいました。楽曲が良いことはもちろんなのですが、演奏と録音もいいですね。どちらも技術に傾かず、伝えたいことを伝える、というシンプルな姿勢に惹かれます。それと、そこはかとない「あこがれ」がアルバム全体にちりばめられていて、音楽家の体温を感じることができます。遠くの友達からの手紙のような音楽です。」
津田貴司(hofli) プロフィール
90年代後半よりhofli名義でサウンドスケープに基づいた演奏を行なう。2004年スイス・フランスツアー。CD-Rアルバム『Biometeor』『Anima』『水の記憶』『Time Flies』(Quinka with a Yawnとの共作)のほか、津田貴司名義で『湿度計』リリース。サウンド・インスタレーション『isobar』『湿度計』『海の呼吸』や、ワークショップ『みみをすます』シリーズを葉山・益子・新潟で開催するなど、空間との対話を重視した音楽活動を展開している。演奏活動のほか、映像やダンスとのコラボレーション、レコーディングエンジニアとしての活動も行っている。
http://d.hatena.ne.jp/hofli/
青木隼人(AOKI,hayato) プロフィール
1978年生まれ。ギター演奏を中心に場所と共にある音楽を続ける。ライブ活動は近江楽堂(東京)、匙屋(東京)、ギャラリーモーネンスコンピス(京都)など。ほかにもギャラリーなどの展示空間にて会場や作家のために音楽を制作。2008年冬には「NADA ART FAIR MIAMI」(アメリカ・マイアミ)にてサウンド・インスタレーションを発表。2009年には間芝勇輔のアニメーション作品に楽曲提供。2007年に自主レーベル「grainfield」を立ち上げ、現在までにCD作品を5枚、CD-R作品を2枚リリースしている。
http://grainfield.net/aoki/