今回、haruka nakamuraのインタビューに合わせ、リリース元であるKitchen.というレーベルについて、そしてharuka nakamuraの『twilight』について、Kitchen.を主宰するRicksとAprilおふたりにメール・インタビュー形式でお答えいただきました。
Kitchen. -----
エレクトロニカ・ユニットaspidistraflyとしても活動する、Ricks AngとApril Leeの男女ふたりによる、シンガポールを拠点とする音楽レーベル/デザイン・ユニット。音楽レーベルとしてはaspidistraflyの1stアルバム『i hold a wish for you』*5を皮切りに、現在3タイトルをリリース。音楽だけでなく、その美しいパッケージ・デザインも含めたアート・ディレクションが特徴。日本のscholeやマレーシアのmu-nestと並び、アジアのエレクトロニカ・ミュージック・シーンを牽引する存在として注目される。
- まず、Kitchen.レーベルのコンセプトを教えてください。
部屋の空気を満たし、思考の間を漂いながらも、けっして邪魔にならないような音楽ができないかと私たちは考え始めました。例えば、ピアノ音をガラスに注ぐ水とミックスするとか、午後6時の暮れかけた陽の光に反射する、風鈴のようなほろ苦いイメージのメロディー…。家や会社といった空間の中で行われる日々の生活を、穏やかに調和する音楽。Kitchen.はそれを、心のこもったCD制作とアートブックで表現したいのです。
- レーベルを作ろうと思ったきっかけは?
Kitchen.のルーツは2005年に紙媒体とウェブのデザインスタジオとしてスタートしたところからです。aspidistraflyの活動と同時に、私たちはシンガポールの映画とメディアアート制作にアートディレクターとして係わっていました。2008年に、aspidistraflyのアルバム"i hold a wish for you"をリリースし、Kitchen.を設立しました。幸運にもそれからは、Kitchen.に共感してくれるアーティスト達とコラボレーションすることにより、レーベルを成長させることができています。
- 音楽そのものだけでなく、写真表現などヴィジュアル面も重要視していますよね?
ひとつひとつ作品をリリースするにあたり、私たちは旅の思い出を切り取るような、時間が止まったかのような、または異国情緒を呼び起こすような物語を作っています。 音楽とヴィジュアルの間には、相互理解や共通言語のようなものがあると考えます。たいていは“music”と“art”として分けられてしまいますが、その言葉自体に捕われ過ぎなのではないでしょうか。“music”と“art”はそれぞれに接触しあい、それぞれ独自のものへ変化します。別の言い方をすれば、作品を見て聴いたリスナーに彼らなりの解釈をしてもらう――もしくは彼らなりの小さな世界を作り上げてもらいたいのです。
- 写真を撮ることに惹かれる理由は?おふたりとも撮りますよね?
私たちは普段、音楽を通した視覚的な表現にインスピレーションを受けています。それを可能にしたのは、昨今のテクノロジーの発展です。そのおかげで私たちはオーディオレコーダーや小さなHDカメラ、そしてフィルムカメラをいつも持ち歩るくことができますし、そこからKitchen.のアートワークが生まれるのです。
- パッケージ(ジャケット)をデザインするときのこだわりは?*6
全ての音楽はそのままでも愛おしいものです。しかし、私たちがCDパッケージを作成しその中で小さな世界を表現したことによって、リスナーが音とイメージの中に溶け込みパラレルの世界へ旅立ってくれることがあるのなら、それはとても素晴らしいことだと感じます。
所属するアーティスト達にも当てはまりますが、緻密で繊細な美的感覚によって作られたパッケージには、職人魂といって良いものがあります。 音楽だけでなく物質的な表現を伴うことによって、アーティストのcentral aesthetics principle(美学的信条の中心)をすべて表現することはとても重要なことであると思います。
- haruka nakamuraの才能をどんなところに感じますか?
私たちは2006年、myspaceでharukaに出会いました。それから私たちは様々な機会(アルバム、コラボ、ツアー)を通じ一緒に仕事をし、お互いに言葉がいらないほど深く信頼し合える関係になりました。harukaの多方面に渡る才能はまるで目まぐるしい東京のように進化し続け、同時に彼は、他の何にも捕われない存在でもあります。彼と親密になるに従い、どうやって彼の音楽が彼の生活の中に溶け込み、彼の周囲の人々に喜びと心地よさを与えているのかを知るようになりました。
-『twilight』については?
『twilight』はそのようなインスピレーションをもたらす環境の下(夕暮れの浜辺近くのスタジオ)で、たった一度のセッションで収録されました。harukaは単に、彼という存在と彼を取り巻く環境を、音楽という美的感覚で形成しているだけなのです。彼は、ドラマティックなもの全てに先立とうとしているように見受けられました。それは例えば、リスナーがやわらかな焚火の炎の前で座りくつろぐような、鮮やかなシナリオを描くかのように、です。
『twilight』は、一瞬のエッセンスを取り込むことにより、静寂と時間の通り道を提案しています。それはharukaが得意とすることであり、それをリスナーとともに共有できることを嬉しく思います。
- Kitchen.(シンガポール)だけでなく、mu-nest(マレーシア)、schole(日本)などアジア周辺で、エレクトロニカと言ってもアコースティックを取り入れてやわらかなサウンドを創り上げるような、同じようなムーヴメントが見られますが、それについてどう思っていますか?
各レーベルはそれぞれが得意とするサウンドを持っています。そしてアジア地域における、独特の審美眼を共有していると思います。私たちはmu-nestの最初の3作品のアートワークとアルバムの制作の手伝いをしました*7。私たちはお互いを助け合うことで地域のネットワークを拡大できると信じており、その中でも日本でのディストリビューターであるp*disは、日本の音楽シーンとオーディエンス、そして私たちを繋げるとても大きな役割を果たして下さっています。
ムーヴメントの共同体として、それぞれのレーベルの成功は、アジアに対する深い文化的見識と新しいニッチ・シーンの誕生も影響して、日本やアジアの音楽に興味を持つアメリカやヨーロッパのリスナーへのフィードバックとして機能していると思います。
―今後のkitchen.の目標、メッセージなどがあれば、お願いいたします。
まず、Kitchen.に興味を持ち、サポートして下さる全ての人々――特に日本のレーベルに感謝の言葉を述べたいと思います。
私たちは今、新しいアルバムのリリースへ向けて始動しています。いろのみ によるアートワーク+CD、“Sketch” が9月にリリース予定。2011年までにはKitchen.から私たち(aspidistrafly)とFJORDNE (a.k.a. Shunichiro Fujimoto) による2作目をリリースする予定もあります。また、Kitchen. Labelとの長きに渡る仲間であるマレーシアのFlica(a.k.a. Euseng Seto)*8、そしてマカオからはエレクトロニカ3人組のEvadeがラインナップに加わる予定です。
皆様がこの夏楽しく過ごせること、そして2010年の平和を願って。
(2010年7月8日 メール・インタビューにて)