haruka:じゃあ、『I just love the piano』について話しましょうか!(笑)
Janis:(笑)えーっと…。自分のホームページにもコラムで書いているんですけど、いつもお世話になっているミュージシャンの方が、私が作ったkadanの「Rob call」やscholeの曲(「intermittent color」/『Note of Seconds - Schole Compilation vol.2』*7収録)を、すごく良いって言ってくださって、「ピアノがメインのアルバムを作ったらいいんじゃないですか?」ってアドバイスをいただいたんです。その時は形にするなんて考えてもいなかったんですけど、ほめられると伸びるタイプというか、気が向くとピアノの前に向かって作っていて。思い浮かんだいいなっていうフレーズがあったら、延ばしていって、1曲にするという作り方で作っていきました。
曲を聴いていただければわかると思うんですけど、自分の曲の作り方って、古典的だと思うんですね。やっぱり自分が踏んできたルーツというのには、クラシックからどうしても離れられないのがありましたし、よくある、すごい甘いきれいな音に自分はあまり興味が無かったし、古いレコードから聞こえてくる巨匠の演奏や曲というものに心が奪われて…。やっぱり自分としてもそういうものに対してもあこがれとか憧憬の思いがあったんですね。だから、なんかこうアンビエントとかでもない、自分の根底に帰ったクラシカルなものを追求したくて。それで、曲を作るにあたって、自分の思うメロディーに対してのストイックなもの、シンプルかつ聴かせるにはどうしたらいいかと、研究しながら作っていました。
印象派の時代のモネとかレンブラントとか、光と陰をうまく表現している絵とか、そういうものを美しいなと思ったり。「ベル=イルの海の絵」という曲があるんですけど、あれはモネの絵自体に「ベル=イルの海岸」というのがあるんです。そこからインスピレーションを感じて作ったというように。やっぱり、ピアノの曲1曲作るにしても、歌ものにしても、暗闇の中に一筋の光がぱーっとさすような感じの、そういうところが表現できたらなと思って。すべての曲に対して、そういう愛情を持って接して作ってますね。
- 古典(クラシック)的という点で質問ですが、作曲のときに楽譜は書いてますか?楽典的な技法を応用していたり、とか。
Janis:楽譜は書いてないです。全部頭に入れて、暗記して。曲を作りながら、なんとなく「ここかな?」とか、「次こういう展開かな?」とか、そういう感じです。
haruka:最終的に、シンプルにそぎ落としたりする作業はあるの?
Janis:作ってて、一通り録音したのを聴いて、それで、やっぱりこの展開もうひとつ欲しいなって思ったら加えて、それでできるみたいな感じですね。
- 音のマスタリングにもこだわりが。
Janis:レコーディングはスタジオなんですけど、音がどうしても硬くキンキン響いたりするんで、あえて最初からノイズを入れてるんですね。さらにマスタリングで70年代の録音機材に録音し直して、曲によってはリヴァーブをかけて深みを出してという作業をしています。このあたりは自分のディレクションで、やっぱりそういう音にしたくて。あえて音に歪みを与える事によって、音に深みを出せたらなあって。
― ヴォーカルの曲を入れようという考えは無かったんですか?
Janis:まったくなかったですね。私は歌ものとピアノの曲が一緒に入っているのがあまり好きではなくて。それはなんか中途半端に思えて。曲を作る人間として、曲だけで勝負したかったというか、自分の作るメロディーで出来る最大限の表現というか、ピアノだけで表現したかったという思いがありました。
- 作曲家として、他人に曲を提供したいという気持ちはありますか?
Janis:そうでうね、もし依頼があれば。弦と管をつかってミニマルっぽい音楽がやれたらいいなあと思ったりもします。
- アルバムのタイトルがものすごくストレートですよね。ある意味、タイトルですごくよくわかる部分があるように思います。
haruka:自分で考えたの?
Janis:そうですね。そのままですね。曲のタイトルにも自分の美意識を集約させたところはありました。
haruka:一回Janisの家に行った事があったんですけど、ものすごい孤独な感じがしました。孤独なところで生まれているから、ああいうメロディーが出来るんだろうなって。ピアノと音楽を愛しているひとりの時間の、ものすごい濃密な感じがその部屋から出てて。『んー…、帰ろう』って思って。
Janis:は!?どういう意味?(笑)居心地が悪いって言いたいの?
haruka:(笑)いや、すごいなって思って。捧げてるんだろうなって思いました。だから、「俺も帰って曲作ろう」って思いました。
- なるほど(笑)。ソロピアノの作品にはどうやっても孤独感が漂うものではないかと思いますが、その中でも、『I just love the piano』には自分と向き合っている姿勢が非常に強く感じられました。
Janis:そうですね、それはあります。ピアノを通じて自分と向き合っている感じですね。ピアノはかけがえのない親友というか。気持ちをわかってくれるというか。ピアノと向き合っている時だけは本当に穏やかな気持ちになれます。曲を作っている時は、良き指導者のような存在でもあるし、とにかく私の気持ちを「救ってくれる」存在です。
― 今回、RONDADE*8からリリースされたのには理由がありますか?
Janis:単純にRONDADEから出ているプロダクトが好きというのがあったし、パッケージも毎回クールでかっこ良かったからですね。ユニセックスな感じがするんです。甘すぎず、でもスパイシーで。そういうのがかっこいいなと思って、RONDADEから出せたらいいなあとずっと思っていました。ここだったらちゃんと自分のイメージを具体化してくれそうだなって。
haruka:では雨と休日の特典CD-Rについて話しましょうか。
Janis:イェーイ。
- ありがとうございます。(笑)
haruka:ちょっと子守唄的なものや、アルバムの曲よりちょっとメロディアスなJanis Crunchのピアノ曲が2曲あります。それから、『12 & 1 SONG』に入れようと最初に思っていて結局入れなかった2人のセッションの曲「sleep」。そして『12 & 1SONG』にも入っている「Requiem」のエレクトリック・ピアノ・ヴァージョン。実はこっちが1stテイクだったんです。そして最後に、僕が書いた新曲「Orion」という曲。このCDに入れるために、『12 & 1 SONG』の世界観のまま作りました。
全体的に夜のイメージというか。『12 & 1 SONG』を聴いた後のイメージ。さっきも言いましたが、『12 & 1 SONG』については、僕の中で「カノン」という曲のビジュアル的なイメージが強いんです。夕暮てきて…丘が見える冬の異国の地みたいなおとぎ話の世界で…森を通って家に帰ったら、暖かい暖炉とか明かりがあって…そして夜になるまでの時間をイメージしてたんですね。『真夜中』は、その「後」の時間に聴けるようなものとして作ったんです。だからタイトルは「真夜中」になっています。
- リリース直前かつライヴを控えたこの忙しい時期に、お越しいただいてありがとうございました!
(2011年12月1日 西麻布・Rainy Day Bookstore & Cafeにて)
Special thanks: 林下英治(Rainy Day Bookstore & Cafe)
photo by sakura sato
最後に、雨と休日のセレクションの中からJanis Crunchおすすめアルバムをご紹介いただきました。