「多色のアンサンブル」 〜 三富栄治『ひかりのたび』インタビュー

  • 雨と休日のインタビュー・シリーズ第6回。今回は、6年ぶり4作目となるアルバム『ひかりのたび』*1をリリースした三富栄治さんをお迎えしました。今までひとりで作品を作っていたミュージシャンが、多人数による作品を作ったということに対して、雨と休日店主・寺田は非常に興味を持ちまして、今回インタビューをさせていただきました。(※本文中の注訳にあるCDのうち、雨と休日で取扱いのあるもののみ、ジャケットをクリックしていただくと商品ページへジャンプいたします。)


  • *1 三富栄治『ひかりのたび』

  • 三富栄治(みとみ・えいじ) プロフィール ――
     東京在住の音楽家/ギタリスト。これまでに竹村延和のレーベルChildisc*2からアルバムを3枚リリース。最新アルバムは2013年9月にリリースした『ひかりのたび』(Sweet Dreams Press)となる。エレクトリック・ギターの独奏を中心とした自身の音楽活動の他、映画『惑星のささやき』(監督:澤田サンダー)への楽曲提供なども行ない、映画『TRAIL』*3(監督:波田野州平)では本人役で主演。2011年からTEASIにベーシストとして参加している。

  • *2 音楽家・竹村延和が主宰するレコードレーベル。音に対するニュートラルな感覚とアマチュアリズムを標榜とした。現在は活動休止中。

    *3 映画『TRAIL』→公式サイト

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■ I. ソロからアンサンブルへ ■
一色ではなくもっと色を付けてみたかった

- もともとギターのソロで作品を作るというスタイルだったのが、バンドを組むというわけではなく、ミュージシャンを迎えてアンサンブル作品を作ろうと思ったのはどういったきっかけだったのでしょうか。

三富:Childiscから3枚のアルバムを出して、そこから6年経ったんですが、同じようにギターだけで曲を作るということについて考えたとき、ここから進歩させるには本当に時間がかかるだろう、と思いまして。
 ギター・ソロでは一色の色で音楽と言う絵を描いているというイメージで作ってたんですが、今回は色を付けてみたかったんです。違う音色を使ってみたくて。色が増えたほうがキャッチーになるじゃないですか。人に聴いてもらうんだったら、いつ聴いても楽しめるものを作れる人って素敵だなと素直に思って。

- 作曲にあたっては楽譜を書いたのでしょうか。

 はい。自分である程度楽譜を書いて弾いてもらうってほうがいいだろうと。メンバーは使いたい楽器や音楽性を考え、今回一緒にやってみたいと思った人に声をかけました。録音は一部オーヴァーダビングなど施していますが、基本は一発録りです。

- 多人数で作品を作ることに抵抗や苦労はありませんでしたか。

 今までひとりでやってたので、その自分の殻を壊したいという気持ちがありました。今回はいろんな人の意見を取り入れて完成させる、そういうことがやってみたかったんです。 その時々で意見の食い違いもありましたが、客観的な意見を取り入れることで全体がブラッシュアップされたと思っています。
 自分の思惑で細かくコントロールするというより、その時の流れにのったほうが作品が良いものになる気がしています。
 逆説的ですが、状況を受け入れた時のほうが僕自身の核みたいなものが浮かび上がってくるんじゃないかとも思うんです。そんな作品が作ってみたかったんです。

- 個人的にもすごく観たいのですが、このメンバーでのライヴは予定していますか。

 やりたいですけどね。メンバーのスケジュールの問題もあるし。今のところは未定です。

■ II. 作曲への情熱 ■
曲が良くなるんだったら弾かなくていいとも思ってるほどで

- ギタリストが作曲をして作品を作るのは珍しいですよね。

 これまでの作品もいわゆる「ギタリストの作品」というアルバムではなかったと思います。もともとそんなに自分はギタリストという意識がなくて。特に今回のアルバムは、ギターの音色だけでというストイックなものより、リスナーにとって風通しのいいものにしたかった。曲が良くなるんだったら自分は弾かなくてもいいのでは?と思ったほどで…。

- それは作曲することにより一層興味が湧いてきたということでしょうか。

 そうですね。音楽活動自体がプレイヤー意識というよりかは曲を作りたくてやっています。最近やっとライヴで自分の音が出せるようになったというプレイヤーとしての喜びも感じつつですが。正直なところ、たまたまギターに慣れ親しんでいるからギターで曲を作り、演奏をしているというところもあります。ピアノが弾けたら自分がやりたいことをもっと自由にできるんじゃないかとも思ったりする時もあるんですよ。

- 聴く音楽も以前とは変わってますか。

  •  ギター作品を作ってた頃はギタリストの作品をよく聴いていましたけど、最近はモリコーネ*4とか好きですね。モリコーネって時代によってサイケデリックだったり、マカロニウエスタンのサントラをやっていたときもバリトンギターが入ったりとか、やってることがなんかオルタナに通ずるところがあって。綺麗な曲も作るし。

  • *4 エンニオ・モリコーネ:主に映画音楽で世界的に知られるイタリア人作曲家。映画音楽における代表作は『ニュー・シネマ・パラダイス』『荒野の用心棒』など。

- 今回の作品のなかで会心の出来、という1曲はありますか。

 「みずのワルツ」という曲があるんですが…あれが出来て良かったなと思ってます。

  • -「みずのワルツ」は私もアルバムのハイライトだなと思いました。楽器の構成やオシレーター*5が入っていたりするアイデアも素晴らしいですね。

     あの曲はみんな黙々とプレイが乗ってきたというか、演奏する人も気に入ってくれたんじゃないかな。ミックスも(担当は上野洋)上野さんが会心の出来と言ってたから、いいオーディオで聴くとけっこういいんじゃないでしょうか。オシレーターは波多野さん(弦楽器、ピアノ等の他、共同プロデュースを担当する波多野敦子)のアイデアで。波多野さんやフルートの上野さんには楽器のフレージングなど助言を多くいただきました。

  • *5 オシレーター:発振回路一般を指すが、楽器としては様々な波形をオシレーターで作ることによって生み出される電子音が利用される。「みずのワルツ」の後半には高音の電子音が楽器のひとつとして使われている。

 あの曲はみんな黙々とプレイが乗ってきたというか、演奏する人も気に入ってくれたんじゃないかな。ミックスも(担当は上野洋)上野さんが会心の出来と言ってたから、いいオーディオで聴くとけっこういいんじゃないでしょうか。オシレーターは波多野さん(弦楽器、ピアノ等の他、共同プロデュースを担当する波多野敦子)のアイデアで。波多野さんやフルートの上野さんには楽器のフレージングなど助言を多くいただきました。

 ギター・ソロが2曲入ってるんですが、全体を通して時間軸のクッションになっているというか、インターリュードという訳じゃないですけど。勢いのあるアン サンブル曲が続く中で、ギター・ソロはトータルの流れを調整しているというところがあるかな。聴きかたによっては、ギター・ソロを聴かすために構成されているとも言えなくはないです(笑)。アンサンブルとギターソロのお互いが引き立つ構成を考えました。アンサンブルとソロのどっちもあって今の自分ですし。

- お話を聞いていると、まだまだ作曲に対する情熱が溢れているように感じます。

 アルバムとしてどう聴いてもらえるか、が重要だと思っています。楽器編成として今回は少し弦に頼ってるところがあるんで、今後は管楽器を使いたいなというのと、生楽器ばっかりだったのでアナログ・シンセなどの少し異質な音色も入れたいなとも思っています。音色の部分でいろいろ実験したいという気持ちがありますね。

- 次回作、期待しています。本日はありがとうございました。

(2013年9月16日 都内某所にて)

最後に、雨と休日のセレクションの中からおすすめアルバムをご紹介いただきました。

  • Keith Jarrett / The Melody at Night, with You
    優しく語りかけてくる音色にぐっときてしまいます。音楽から伝わることってこんなに豊かなんだと気づかされる、そんな一枚です。お祝いごとのプレゼントにも良いと思いますよ。
  • Gonzales / Solo Piano
    軽やかな旋律なのにムードがある。 聴きやすいのに味わい深い。 聴く度に好きになる、名盤だと思います。